2006年竣工。近くに伝統的建造物群保存地区があるので、地域にあった景観を意識し、船枻(せがい)造りを採用しました。船枻造りとは、1階よりも張り出している2階部分を腕木で支えている構造で、長野や岐阜などの民家によく見られる様式です。外観には伝統的な要素をとりいれましたが、暮らしやすさの面では現代的です。夏に暑すぎず、冬に寒すぎない家にするため、温熱環境には気を使いました。夏は1階2階の広い開口部から入った空気が、突き出し屋根に抜けるよう、室内に風の道を確保し、冬は、1階に地元の土を使って建て主さんと共につくった三和土(たたき)の土間が太陽光をあびて蓄熱し、夜に放熱することによって室温の低下をやわらげます。建材には、もちろん自然素材をふんだんに使っており、暖房には薪ストーブを使う、健康的な家です。
堂々した正面。大型船の艦橋のようにも見えます。
船枻造りの特徴がよくわかります。和船の両舷に、櫓を漕ぐ場所として張り出していた部分があり、舟棚とか船枻と呼ばれていました。それに形が似ていることから、船枻造りという名前がついたと言われています。


中に入ると、建て主さんと一緒につくった土間と薪ストーブが、まず目に入ります。冬は、土間が太陽光の熱であたたまり、薪ストーブの裏にあるレンガの壁が、ストーブの熱を蓄えて、建物全体を長時間じんわりと暖めます。
土間の奥の部屋から振り返って、ストーブの後ろ側を眺めたところ。正面にある土間と、その左右の部屋、上は吹抜けを横切る渡り廊下と、様々な空間が交錯して見える場所です。


2階は吹き抜けや小屋組み、船枻造りの張り出しなど、複雑な構造が魅力となっています。
2階の船枻造りの張り出し部分は広縁となっている。床下に断熱と蓄熱のため壁土を入れてある。秋の長い陽射しが床を暖め蓄熱し、ほんのり暖かい広縁となります。


1階の暖かい空気を、くまなく2階に行き届かせるために、2階の床面のところどころに、空気の通り道をつくりました。


通気のための突き出し屋根や、2階の窓から太陽光が降り注ぎます。冬はこれだけでかなり暖かくなります。
ダイニングキッチン。テーブルと椅子も大工さん作です。
暗くなると、2階の窓越しに小屋裏の構造がよくわかります。夜、帰宅する時にほっとする瞬間です。