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2023年4月24日

「いたくら Vol.09 」

カテゴリー: 設計について

日本板倉建築協会の会誌「いたくら」の9号が刊行されました。協会が出来て毎年発行しているもので、早いものでもう9年が経ちました。その間、板倉の家づくりも少しづつ広がりを見せています。

今回は特集として「信州の板倉」を取り上げています。薪ストーブはもちろんペチカなどの寒冷地の暖房方式や断熱等についての工夫や課題について取り上げています。その中で、私の事務所では、駒ケ根市の「MSガーデンハウス」と御代田町の「塩野の家」を掲載しました。

「MSガーデンハウス」は、建主が所有する山の木だけで造られた板倉の離れ住宅です。山の木の伐採、製材、天然乾燥、建設と小さな建築ですが完成までに丸2年以上かかりました。今も大切に使っていただいています。10年の歳月を経て板倉の壁の厚板や軸組の木の色艶も落ち着いてきました。

「塩野の家」の中庭

「塩野の家」は、建築家 篠原一男 の初期の傑作「土間の家」の所有者の新たな住まい。同じ敷地に「土間の家」と共に中庭を構成するように配置されています。こちらはカラマツで造られた板倉の家です。間もなく竣工してから10年がたちますが、内外とも本当に良い飴色の建築になってきました。

是非、本文をご覧ください。ご希望であれば冊子をお送りしますので、ホームページよりお知らせください。

 

 

2022年12月31日

2022年も大晦日になりました。

カテゴリー: 設計について

令和4年 もあと僅か。アッという間に1年が過ぎてしまいました。10月以降、月末になると忙しくなり暫くHPの更新が疎かになりました。10月以降お伝え出来なかったものをまとめます。

7月の記事「板倉の家 上棟」の家は、無事竣工しました。なだらかな丘の上に敷地の高低差に沿ってスキップフロアで構成された住宅です。造成などせず敷地の自然地形を尊重し、なるべくそれを壊さないように考えられた建築です。人工的な敷地造成、特に盛土などは年月が経っても不安定なものなのでやむを得ない場合以外はなるべく避けたいものです。今後、竣工写真が出来ましたら改めてお伝えします。

また、もう一つコンパクトな平屋の板倉の家が上棟しました。

この住宅もちょっと敷地がアプローチより上がっていて高い所にあります。そのため基礎の一部を深くして南側の擁壁に建物の荷重を掛けないように考えられています。北側の母屋の陽当りを確保し視覚的な圧迫感を和らげるため、また母屋への出入りの車に、この建物の軒先が邪魔にならないよう変形した寄棟の屋根の形となっています。年明けに造作工事に入っていきます。

2022年は国内的にも世界的にも激動と言ってよいほどの事象が続きました。来年こそは穏やかな一年となりますよう祈りたいと思います。

それではよいお年を。

 

2022年9月29日

木の家 完成

カテゴリー: 設計について

2月に上棟の様子をお知らせした木の家の完成です。

コンパクトな総2階建ての家でも全体的に高さを抑え安定した好ましいプロポーションとし、周囲に威圧感を与えないヒューマンスケールの建物です。

自然素材 無垢カラマツ板無塗装の外壁がいい飴色になり周辺の田園風景に調和しています。水に強いカラマツの自然な色ですが周りに木の外壁の家がないので結構目立ちます。塗装も何もしないので、その土地の風雪を受け年月と共にその土地の色に染まり、さらに自然な佇まいの家になっていくことでしょう。

玄関ポーチの風除けは、同じ外壁材を使い編み物のような柔らかい雰囲気に。

玄関は板土間で、泥んこ遊びをした子供の服とか、泥のついた野菜など汚れものを洗うシンクがありテラス戸ですぐ庭へつながります。今回の内装は、針葉樹合板。

キッチンは合板で大工さんが製作したもの。辷出しの窓は、南側の庭の向こうの風景を切り取ります。

広間もテラスを介して庭と繋がり、大きなサッシュで雄大な風景を楽しめます。

階高を抑えた2階は、ロフトのような雰囲気ですが、屋根の形がそのまま現れ空間に変化があるので、あまり狭さを感じません。

内外に木を現した家族と共に時を刻む家です。

2022年7月29日

板倉の家 上棟

カテゴリー: 設計について

板倉構法の家の建て方が始まりました。

土台を敷き柱を建て1階の壁をほぼ落し終えたところです。床の断熱材もすでに敷きこまれています。真ん中の紙で養生された太い通し柱が、家の構造の中心となる大黒柱です。柱や梁、壁の落し板等すべてが無垢の地域材カラマツです。

この家は緩やかな傾斜地に建つので、その傾斜に合わせ手前の部屋部分の床を一段下げたスキップフロアの構成となっています。

床の梁を組み管柱を建て壁の厚板を柱の溝に落とし込んでいきます。壁の厚板は1寸厚(3cm)の無垢材です。ここでは、厚板を4~5枚縦につなぎパネル化したものを落し入れて、1枚ずつ落すよりもスピードアップしています。

床や屋根も同じ無垢の厚板を使って貼ります。同じ規格の厚板を壁や床・屋根等に大量に使うので、材料の種類が減り材料生産と現場施工の効率が上がります。材料の無駄もなくなり無垢材の家としてはコストダウンができます。

厚板を様々に使いまわすことにより細かい下地が不要となり、現しの構造体となるので太い柱・梁だけで家を構成でき、増改築や解体移築も容易となります。

数十年、半世紀後であってもこの家の材料は無駄にならず次の時代に引き継ぐことができ、最後の最後には地球環境を汚すことなく土に還っていきます。

もちろんシックハウスとは無縁で新建材にはない調湿作用が充分働くので、住み心地は抜群。地球にも住まい手にも優しい板倉の家です。

2022年2月27日

寒風の中の上棟

カテゴリー: 設計について

2月下旬 少しは暖かくなるはずが今年は例年になく寒く、寒風の中での棟上げとなりました。

基礎は昨年末に出来上がっていたものです。この建物は、板倉ではなく一般的な在来構法です。

しかし、4寸角の丈夫な垂木(登り梁)を使い垂木構造とし、ロフト的な2階として階高を最小限に抑え建物全体を低くしているため、非常に安定した構造体となりました。一般的な在来工法の建物は、上棟したばかりだと少し揺れるのですが、この建物は全く揺れませんでした。

ここに耐震壁を張っていきますので、さらに丈夫な建物となります。板倉ではありませんが、なるべく木のイメージを出すよう屋根や天井は現しの構造体としています。これからサッシュが入り壁が張られていきます。外壁は無垢の地域材カラマツ板なので、この地域に似合った木の家が出来上がるはずです。

 

2021年5月22日

板倉の家完成

カテゴリー: 設計について

新しい板倉の家が完成しました。外装は、定番のカラマツ竪羽目板と漆喰塗です。外観は同じですが、屋根の構成は通気層の厚さを大きくし、遮熱シートをプラス。近年の温暖化による夏の異常な暑さに対処しています。

他にも軒桁の小口(断面部分)に雨が当たらないよう、屋根の野地板の出をより大きくしたりなど、細かい改良を常に加えています。少しずつ改良を重ね、見えない部分でも完成度を高めている進化する板倉の家です。

 

2021年3月24日

コロナに負けるな!          無垢の木の抗ウイルス性

カテゴリー: 設計について

昨年からのコロナ禍は、いまだ世界中を覆っています。国内でもワクチン接種が始まりましたが、すべての国民にいきわたるのはだいぶ先の事ですし、変異ウイルスも出現しこの先どうなるのか?まだまだ先の見えない日々が続きます。

そんな中ですが、無垢の木の抗ウイルス性に関する実験結果を「木の家の健康を研究する会」の九州大学准教授 清水邦義氏が発表しました。

実験はインフルエンザA型ウイルスを使っていますが、新型コロナウイルスでも同様の結果が期待できるそうです。無垢杉材の表面についたウイルスは、化粧合板の表面と比べ感染力が激減したそうです。やはり自然素材の無垢の木は、抗菌・抗ウイルス性が強く住宅の素材として、最適だということが分かります。高齢者や幼児、疾患のある方等免疫力の弱い家族にも安心の暮らしができる自然素材の木の家です。

板倉の家は、全て無垢の木だけで造り、無垢の木だけに囲まれるわけですから科学的にも健康に良い家であると言えます。次回は「木の家の健康を研究する会」の他の研究成果をお伝えしたいと思います。

 

 

2020年10月29日

板倉の家 現場

カテゴリー: 設計について

板倉構法住宅の現場が始まりました。基礎コンクリートが打たれ、型枠を外しています。

コンクリートのきれいなベタ基礎が現れました。型枠は、金属のメタル型枠。合板の型枠よりも多数回使いまわしがきき、表面が平滑なのできれいな仕上がりとなります。しかし、合板の型枠のように切断加工していろいろな形の基礎に対応することはできません。今回の基礎は、平面に細かい変形箇所がなく、理想的な形の間取りでしたので効率よくメタル型枠が使われました。

そして、基礎工事の間に構造材の材木の加工がおこなわれています。

今回は伝統的構法の建物ですので、梁や柱の加工はプレカットのマシンではなく大工さんが1本々手刻みで行っています。それぞれの木の性格を読みながら、木と対話しながら加工してくれます。機械での効率的な加工にスピードは及びませんが、自然からの贈り物である木を大切に扱うことで、永く住み継ぐことのできる温かみのある木の家になります。

加工が終わると、いよいよ板倉構法の建て方となります。

2020年9月17日

板倉の歴史

カテゴリー: 設計について

今回は、板倉構法のルーツを探してみましょう。

 これは皆さん「校倉(あぜくら)造」としてご存じ の東大寺の正倉院です。奈良時代に建てられた、古代の美術工芸品の一大宝庫で、もちろん国宝、世界遺産でもあります。校倉造とは、三角形の校木(あぜぎ)という木材を井桁に積み重ねて外壁を造る構法で、写真の横ストライプの外壁でよく分かると思います。

とても大きな建物で3つの部屋に分かれていて、向かって右から北倉(ほくそう)中倉、南倉と呼ばれています。よく見ると外観写真の真ん中部分(中倉)は、校倉造ではありません。中倉は厚板を柱の溝に沿って落とし込んだ「落し板倉構法」です。この中倉は後の時代の増築との説もありますが、部材の木材年代測定から北倉・南倉と同時期のものとの説が有力です。

有名な話に、正倉院の校倉の壁は湿度が低いときは校木(あぜぎ)が乾燥収縮し、隙間ができて風が通り室内を乾燥させる。湿度が高いときは校木が膨らんで湿気を遮断するので室内環境が安定し何百年も宝物を護ることができた、というものがありますがこれはちょっと違います。

無垢の木の外壁なので湿気を吸放出するのは確かなのですが、隙間ができて通気することはありません。宝物はさらに唐櫃(からびつ)というの無垢の木の箱の中で保存されたことが良かったようです。

校倉造も広義には板倉構法の一部ですが、「落し板倉構法」はこのように昔から大切な宝物を護る建物に使われてきました。このほか神聖な伊勢神宮も(形態は唯一神明造)壁は「落し板倉構法」です。

これは、私の地元上田市の塩田平にある中禅寺薬師堂です。平安時代末期に造られ重要文化財となっているもので、中部地方最古の建築といわれています。薬師如来坐像を納めた建物で、形態は阿弥陀堂形式一間四面堂といいますが、壁は「落とし板倉構法」です。

上が外壁写真で丸い柱に溝を突き、厚板を落とし込んでいるのがよく分かります。

この他、弥生時代の登呂遺跡や吉野ケ里遺跡などの穀物倉庫も高床の板倉構法によってつくられていたようです。このように板倉構法の堅牢性・耐久性、優れた温熱環境(断熱・調湿)性能は、古代から大切な穀物や宝物を護るために使われてきました。

古の知恵を賢く使い、機械に頼らず快適な住環境を実現するのが現代の「板倉の家」なのです。