板倉の家完成
新しい板倉の家が完成しました。外装は、定番のカラマツ竪羽目板と漆喰塗です。外観は同じですが、屋根の構成は通気層の厚さを大きくし、遮熱シートをプラス。近年の温暖化による夏の異常な暑さに対処しています。
他にも軒桁の小口(断面部分)に雨が当たらないよう、屋根の野地板の出をより大きくしたりなど、細かい改良を常に加えています。少しずつ改良を重ね、見えない部分でも完成度を高めている進化する板倉の家です。
昨年からのコロナ禍は、いまだ世界中を覆っています。国内でもワクチン接種が始まりましたが、すべての国民にいきわたるのはだいぶ先の事ですし、変異ウイルスも出現しこの先どうなるのか?まだまだ先の見えない日々が続きます。
そんな中ですが、無垢の木の抗ウイルス性に関する実験結果を「木の家の健康を研究する会」の九州大学准教授 清水邦義氏が発表しました。
実験はインフルエンザA型ウイルスを使っていますが、新型コロナウイルスでも同様の結果が期待できるそうです。無垢杉材の表面についたウイルスは、化粧合板の表面と比べ感染力が激減したそうです。やはり自然素材の無垢の木は、抗菌・抗ウイルス性が強く住宅の素材として、最適だということが分かります。高齢者や幼児、疾患のある方等免疫力の弱い家族にも安心の暮らしができる自然素材の木の家です。
板倉の家は、全て無垢の木だけで造り、無垢の木だけに囲まれるわけですから科学的にも健康に良い家であると言えます。次回は「木の家の健康を研究する会」の他の研究成果をお伝えしたいと思います。
板倉構法住宅の現場が始まりました。基礎コンクリートが打たれ、型枠を外しています。
コンクリートのきれいなベタ基礎が現れました。型枠は、金属のメタル型枠。合板の型枠よりも多数回使いまわしがきき、表面が平滑なのできれいな仕上がりとなります。しかし、合板の型枠のように切断加工していろいろな形の基礎に対応することはできません。今回の基礎は、平面に細かい変形箇所がなく、理想的な形の間取りでしたので効率よくメタル型枠が使われました。
そして、基礎工事の間に構造材の材木の加工がおこなわれています。
今回は伝統的構法の建物ですので、梁や柱の加工はプレカットのマシンではなく大工さんが1本々手刻みで行っています。それぞれの木の性格を読みながら、木と対話しながら加工してくれます。機械での効率的な加工にスピードは及びませんが、自然からの贈り物である木を大切に扱うことで、永く住み継ぐことのできる温かみのある木の家になります。
加工が終わると、いよいよ板倉構法の建て方となります。
今回は、板倉構法のルーツを探してみましょう。
これは皆さん「校倉(あぜくら)造」としてご存じ の東大寺の正倉院です。奈良時代に建てられた、古代の美術工芸品の一大宝庫で、もちろん国宝、世界遺産でもあります。校倉造とは、三角形の校木(あぜぎ)という木材を井桁に積み重ねて外壁を造る構法で、写真の横ストライプの外壁でよく分かると思います。
とても大きな建物で3つの部屋に分かれていて、向かって右から北倉(ほくそう)中倉、南倉と呼ばれています。よく見ると外観写真の真ん中部分(中倉)は、校倉造ではありません。中倉は厚板を柱の溝に沿って落とし込んだ「落し板倉構法」です。この中倉は後の時代の増築との説もありますが、部材の木材年代測定から北倉・南倉と同時期のものとの説が有力です。
有名な話に、正倉院の校倉の壁は湿度が低いときは校木(あぜぎ)が乾燥収縮し、隙間ができて風が通り室内を乾燥させる。湿度が高いときは校木が膨らんで湿気を遮断するので室内環境が安定し何百年も宝物を護ることができた、というものがありますがこれはちょっと違います。
無垢の木の外壁なので湿気を吸放出するのは確かなのですが、隙間ができて通気することはありません。宝物はさらに唐櫃(からびつ)というの無垢の木の箱の中で保存されたことが良かったようです。
校倉造も広義には板倉構法の一部ですが、「落し板倉構法」はこのように昔から大切な宝物を護る建物に使われてきました。このほか神聖な伊勢神宮も(形態は唯一神明造)壁は「落し板倉構法」です。
これは、私の地元上田市の塩田平にある中禅寺薬師堂です。平安時代末期に造られ重要文化財となっているもので、中部地方最古の建築といわれています。薬師如来坐像を納めた建物で、形態は阿弥陀堂形式一間四面堂といいますが、壁は「落とし板倉構法」です。
上が外壁写真で丸い柱に溝を突き、厚板を落とし込んでいるのがよく分かります。
この他、弥生時代の登呂遺跡や吉野ケ里遺跡などの穀物倉庫も高床の板倉構法によってつくられていたようです。このように板倉構法の堅牢性・耐久性、優れた温熱環境(断熱・調湿)性能は、古代から大切な穀物や宝物を護るために使われてきました。
古の知恵を賢く使い、機械に頼らず快適な住環境を実現するのが現代の「板倉の家」なのです。
林野庁をご存じでしょうか。日本の森林の保全や林業の発展などに関する国の組織です。
霞ヶ関にある国のお役所というと、なんだかお堅いイメージですが、林野庁のホームページには、硬い文章ばかりではなく、木の楽しいお話もたくさん載っています。
今回は、木の種類をマンガで学んでみましょう。
これだけ樹木についての知識があればすごいもんです。読んでいて飽きない。私としては、カラマツの頁も欲しかったけれど、造り酒屋の杉玉の色の変化が日本酒の熟成具合を表わすなどは知りませんでした。 是非ページをめくってみてください。
https://www.rinya.maff.go.jp/j/tosyo/attach/pdf/event-25.pdf
林野図書資料館 本の森 「リン子の絵日記」から。(農水省リンク通知済)
以前お知らせした店舗併用住宅が、外構も終了しすべて完成し竣工写真ができましたので、お知らせします。
自然食品のお店ですので、建物も自然素材の建物です。外壁は無塗装のカラマツ板とシックイ塗。床は、敷き瓦や自然石の洗出し。スギの骨組みは、伝統的構法で大工さんの手刻みです。 ここは外壁の一部が市街地の防火規制にかかります。そのため通常は防火サイディングなどの外壁になりますが、板倉構法の防火仕様壁としたため、外壁は無垢の板張りとすることができました。
建物の裏側は駐車場ですが、建替え前の家の庭にあったお稲荷様を横の柿ノ木と共に保存しました。ちょうど新しい住宅の玄関と対峙する位置になり、住宅のアプローチが豊かになりました。
お稲荷様の周りの石も以前の庭にあったものです。後ろのコンクリート打放しの囲いも硬い表情にならないように、高さを抑え端部を斜めに切り落としています。新しいお店を優しく見守っていただけると思います。
住宅の玄関は、建物の裏側です。手前のカラマツ板竪張りの小屋は物置で、勝手口と向合い生活の雑物を収納するとともに、勝手口を隠す塀の役目をしています。
お店の中は、大きな空間とするため、大黒柱に松の大梁を掛け『新しいけれど懐かしい』古民家再生のような空間になっています。現代の照明を使い伝統構法の空間に新鮮さを与えています。商品棚も木製として自然食品のお店にふさわしいナチュラルな雰囲気を出しました。丸太の大梁の下に筋違が見えます。その向こう側が、お店の自然食品を使った料理教室を開くオープンキッチンです。
オープンキッチンの大きなアイランド型ワークトップは、スギの三層ボードを使い大工さんが簡単に作れるシンプル・オープンな設計。お店と同じく、天井を張らないゆったりした明るい空間です。夏は冷房の効きがよく、冬も外断熱とシーリングファンのおかげで足元も寒くありません。
大きな無垢の木のテーブルは、作った料理をみんなで囲むことができます。
お化粧のコーナーも充実しています。
住宅の広間です。ここも天井を張らず厚板の屋根野地板表しのゆったりした空間で、適度に変形しているので、ピアノの音がよい響きです。この野地板の上に厚い外断熱材と通気層があるので、この夏も快適でした。小上りの和室は予備室を兼ねます。
住宅のキッチンも大工さん手作り。シンプルな玄関には、陶板や絵がそっと彩りを添えます。
『建物はシンプルに、素材はナチュラルに、雰囲気はカジュアルに』しみず建築工房のコンセプトを体現する建築で、人懐こいこの家の猫が満足そうに見送ってくれました。
今回は、板倉の家の断熱について書いてみたいと思います。
板倉構法は、溝を掘った柱の間に無垢の厚板を落し込んで壁を作り、床や屋根にもこの厚板を張って家全体を構成します。
つまり無垢の厚板に囲まれた家となり一般的な合板や石膏ボードの家に比べ、これで断熱性能や蓄熱性能がかなり良い家となっています。しみず建築工房では、さらに断熱性能を向上させるため、無垢厚板の外側に断熱材を取り付け外断熱工法とし、省エネ基準を超える性能の板倉の家を造っています。
今回は壁・屋根・床の断熱施工の様子をご紹介します。
まず、屋根の外断熱。 厚板の屋根板に透湿防水シートを張りその上に所定の断熱材を載せていきます。写真はネオマフォーム。
大きな 軒部分は断熱の必要がないので、下に室内がある部分に断熱材を載せています。この後、断熱材の上に通気層が確保できるように通常の野地板(屋根板)を張り、防水用のルーフィングと屋根材を施工していきます。
次に、壁の外断熱。
厚板の壁の外側に柱・梁を含めすべてを外断熱材でくるんでいきます。写真はスタイロフォーム。
この外断熱の上に、防風のための透湿防水シートと通気胴縁を取り付け、通気層を確保し外壁仕上げ材を張っていきます。
次は、床の断熱。
床を支える大引きの間にボード上の断熱材を入れていきます。写真はネオマフォーム。
その上に、やはり透湿防水シートを張り一層目の床板(荒床)を張ります。その上にさらに断熱材(写真は羊毛)を敷き詰めます。
床は、2重の断熱構成となっていて冬でも気持ちの良い素足の生活ができます。
板倉の家は、無垢厚板の断熱性能の上にさらに、このように省エネ基準の断熱性能を付加しているので、信州の寒い冬でも、そして暑い夏でも快適に暮らすことができます。今年のような湿度が高く暑い夏でも、外断熱と無垢厚板に囲まれた室内は、厚板の調湿作用により湿度が抑えられ自然な室内環境が保たれています。目に見えない環境性能も快適にしてくれる、板倉の家です。
自然食品を扱う店舗併用住宅が完成しました。
木造平屋建ての建物で、市街地の主要道路の角地に面しています。前の通りからお店の雰囲気がよくわかるように、道路面の外壁はガラス張りとしています。ガラス張りに対してコントラストを付けた板張りの外壁部分には大きな出窓のショーウィンドウを設けています。かわいい越屋根を付けた店舗部分の形体は雁行していて、角地にふさわしいものとしました。奥のコンクリート塀に囲われた部分が住宅です。
まだ、住宅部分の外構ができていません。また、お店の裏には、建替え前の庭にあった稲荷神社がありますが、ここの整備もこれからです。すべてが完成したらまたお知らせします。
今年も「信州の建築家とつくる家」シリーズが出版されました。長野県の建築家有志による自費出版で、出版社などが多少変わりながらも今回で14巻目です。編集の方法も毎回進歩していますが、やはり掲載される建築の質がかなり向上しています。都会のような狭小な敷地にアクロバット的な解決方法で目を引く建築は掲載されていません。信州ならではのゆったりとした自然に包まれた敷地に、おおらかで質の高い建築ばかりです。しみず建築工房の「原村の家」も掲載されています。県内の書店で販売されていますが、お問い合せいただければ販売いたします。
また、日本板倉建築協会の会誌「いたくら」も、第5号(2019年版)ができました。東日本大震災の板倉仮設住宅が、西日本豪雨の仮設住宅に転用された記事が詳しく出ています。福島から岡山へ仮設住宅がリレーされ板倉工法の可能性・有効性が改めて示されました。協会には新たな会員も徐々に増えて、全国に板倉工法が少しずつ広がっています。この本は、会誌なので一般書店では販売していません。お問い合せいただければ、ご希望の方に販売いたします。
事務所ビル 竣工
昨年から工事をしていた事務所ビルが竣工して、営業を始めています。シンプル&ベーシックな建築ですが、温熱環境には気を使い、置き屋根方式で太陽熱を遮断し、壁の断熱もしっかりしています。もちろん遮熱型のLow-Eペアガラス断熱サッシュ。平面形も単純でフリーアクセスの床を備えオフィスのレイアウト変更等に柔軟に対応します。ローコスト化のため目立ったデザインは一切していませんが、誰にでも使いやすく長く使える建築となっています。